かえっておいで,はやぶさ

かえっておいで,はやぶさ

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久しぶりのはやぶさ応援絵です.はやぶさの資料が意外と無くて大変でした.相模原まで行って来ちゃったよ!あと現代萌衛星図鑑がすごい参考になりました(^^).高解像度版(800px*1,582px/212KB) も上げてみましょうか.

「2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機,MUSES-C"はやぶさ".満身創痍となりながらもミッションを遂行し,帰還の途にあった彼女ですが,2009年11月4日にイオンエンジン1基が停止してしまいました.中和器が寿命を迎えたのです」

『イオンエンジンっていうのは,はやぶさのお尻に4つ付いてる大根の輪切りみたいのだよね?』

…大根…似てるかな…?まあ,そうね.

「その横にある小さな部品が中和器です」

希ガス原子を電離して電界の中に放り込んでやると,陽イオンが負極側に移動します.負極側を開口部にしてノズルにすれば,その反作用を推力として使える…というのがイオンエンジンの仕組み.でも陽イオンを放射していると機体がマイナスの電荷を帯びてしまうし,放射した陽イオンも互いに反発してまっすぐ飛ばないので,そのままだと効率が悪いです.そこで中和器を使って陰イオンを当ててやるのですね.

「イオンエンジンの推力はごく小さいのですが,長い時間噴射することで,最終的には化学エンジンの1/10程度の重さの推進剤で同じ速度を出せるという利点があります.軌道投入という事で考えれば化学燃料ロケットは数分程度で燃え尽きますが,イオンエンジンは数ヶ月とか数年単位での運用を行います.

『推進剤が少なければその分ミッション機器を沢山積めるし,小さなロケットで遠くまで行く船を打ち上げることも出来るってこと?』

「そう!M-Vロケットを使っていたISASの探査船にはぴったりの推進器ね.はやぶさには4基搭載され,2基ペアでの運用が基本です」

残り2基は冗長系ですね.上段が左からA,B.下段が同じくC,D.エンジンAは打ち上げ直後に不具合があってずっと停止してました.Bは2007年にやはり中和器の寿命で運用中止.Cは生きていますが予備として停止中,ただし設計寿命は過ぎていて,効率が下がっています.そして今回止まったのがD.

『……かなり厳しいんだね……』

あらゆる苦難を創意工夫とド根性で乗り越えてきた彼女だけど,今回は…,というか,これからの道がかなり厳しくなるなと.

『うーん……』

はやぶさの道程

「ここで少しおさらいしてみましょうか」

おながいしまう.

「はい.(こほん)―2005年7月,航行中にリアクションホイール1基が故障.10月,イトカワとのランデブー後にもう1基が故障.ここで姿勢制御系は科学燃料スラスタを併用した手法に切り替えられます」

リアクションホイールというのは独楽の原理を使って宇宙機の姿勢を制御する装置で,x,y,z軸に1基づつ3基あります.推進剤を消費しないのがメリットですね.

『そのリアクションホイールが使えなくなって,スラスタを使わなきゃならなくなったという事は…』

予定よりも燃料を大事にしなくちゃいけなくなったって事ですね.

「怪我を押してのイトカワへのタッチダウンは11月4日から26日にかけて.3回のリハーサルを経て,2回のタッチダウンを行いました.26日に行われた2回目のタッチダウンではスラスタに燃料の漏洩があったものの弁閉鎖により対処,ともかくはやぶさは史上初の『他天体から離陸した探査機』になりました.」

イトカワのサンプルの採取にも成功―と思ったんだけど….

「11月27日スラスタの推力が低下.姿勢制御に問題が発生します.そして28日には通信が途絶」

『……』

「29日にはビーコン通信が回復,12月2日にスラスタの再起動を試みますが,充分な推力が得られないことがわかりました」

『リアクションホイールもスラスタも使えないんじゃ,姿勢制御なんて…』

ここでISAS的なウルトラCが出ます.12月3日,イオンエンジン用のキセノンガスを生のまま噴射して,その反作用で姿勢を制御する方式を採用.新しい姿勢制御プログラムは翌4日に完成して,早速実施されます.

『すごい……』

「12月7日.はやぶさから得た情報はかなり厳しいものでした.はやぶさの中で大幅な温度低下と大規模な停電が発生し,バッテリーは深い放電を発生,メモリもほとんどが飛んでしまっていました.データレコーダのパーティション情報やデータの処理送信を行う中枢装置の絶対時刻データも消えてしまっているほどの深刻な状況です」

パソコンで例えれば,ハードディスクがフォーマットされてマザーボードのCMOSまで飛んじゃったってカンジかな.

「イメージ的にはそんな感じでしょうか….おそらくきっかけは燃料の漏洩によるものと推定されました.そして,タッチダウン時にプロジェクタイル発射中止コマンドが紛れ込んでいたらしいことも判りました.つまりサンプル採取失敗の高い可能性が存在するということです」

プロジェクタイルというのはサンプラホーンから発射される弾丸です.これをイトカワ表面に打ち込んで,飛散した破片を試料容器に封じ込める訳ですね.

『なんでそんなコマンドが?星のかけらは拾えなかったの?』

「わからないの.何しろデータがほとんど消えてしまっているから…….でももしかしたら発射されているかもしれないし,タッチダウンの衝撃で採取されているしれない.ともかく蓋を開けるまでは……」

『そっか…』

あそこまで行っただけでもスゴイと思いますけどね.もともとイオンエンジン搭載の宇宙機というのがメインの工学試験機で,折角だから小惑星探査もやろうというもの.いわばサンプル採取やカプセルのリエントリはエクストラ中のエクストラミッションとも言えます.

「はやぶさの受難は続きます.12月8日,再度の燃料漏洩.機体はみそすり運動を始めました.キセノン噴射による姿勢制御も功をなさず,9日以降通信途絶」

設計段階で姿勢が安定するようにはなっているので,この段階では通信回復を待つしかありません.12月14日,新しい帰還スケジュールが設定されます.帰還は2010年6月.

『これが今のスケジュールだね』

「1月23日,良いニュースが入ってきました.通信が回復したのです.やがてはやぶさの状況もわかってきました.姿勢の喪失により太陽電池の発生する電力が極端に低下し,バッテリが放電.ほとんどのセルが使えなくなってしまった上,間違えれば爆発の可能性も有ります.スラスタは燃料,酸化剤ともに残量はほぼ0」

『ぼろぼろじゃない……』

「でもキセノンガスは残っていました.帰還の可能性はあります.何よりまだ彼女は生きています.2月25日.ローゲインアンテナでの通信回復.3月4日にはミドルインアンテナが使えるようになります」

そして3月6日軌道推定成功!

「3月から4月にかけてはベーキングが行われました」

『ベーキング?』

「ヒータで暖めて,船内のガスを追い払うの.そのまま電源を入れるとショートするかもしれないから」

人工衛星でもやりますね,地上から持ってきちゃった空気を追い出すのに.

「5月31日にはイオンエンジンの再起動に成功,7月末,またウルトラCが出ます.キセノンの節約のために,姿勢制御に新たな手法が取り入れられました」

『……?ホイールがだめで,化学燃料はゼロでしょ?キセノンを使わないなら,もう何も残ってないよ?』

光圧.

『ええええええっ!?』

「3軸制御を止めてスピン安定にしたの.自分自身が独楽になる方法ね.はやぶさはゆっくりと復旧を行っていきます.バッテリを充電,試料の容器をリエントリカプセルに格納,そして2007年4月25日,イオンエンジンによる巡航を開始」

姿勢制御にははリアクションホイールとイオンエンジンの首振りの機構,それに光圧を使用することに.以降3軸モードと光圧スピン安定を切り替えながら,ゆっくりと地球への道をたどっていました.

『でも4日にエンジンが停止しちゃったんだね….帰ってこられるのかな』

「きっと今ISASの人たちが新しい帰還スケジュールを立てていると思うわ.でも……」

たった1基のエンジンで必要な加速が得られるかどうか.長く噴射するしかないだろうけど…….

『残り1基も止まるかもしれない?』

可能性はあります.

『やだな……ちゃんとお帰りなさいって言ってあげたい』

ですよね.でも祈りや願いには現実を変える力は無いです.けど,運用するのは人だから.

「物理法則は変えられなくても,人の心には届きますものね」

ですよー.応援する気持ちを,出来る形で声に上げて行きたいと思うのです.中の人がこんな辺境を見てるとは思ってませんけど,「みんな応援してるよ!」の「みんな」のひとかけらくらいにはなれるかなと.それに…

『?』

ちょっと矛盾するけど,もう私の中でははやぶさは心を持ってるので,応援したら頑張ってくれそな気がする(・∀・).

「擬人化の国の人ですもんね(^^;)」

『でも擬人化絵は描かないよね?』

だってしきしまさんALUMIIさんが正解を出しちゃったんだもの!

『あー……』

「まあ,その……(^^;)」

参考リンク

Ad Astra/Gallery/original/かえっておいで,はやぶさ 2009-11-17. comment/fileupdated at:2009-11-18.